『THE CHET BAKER QUARTET WITH RUSS FREEMAN』 

 ウエストコースト・ジャズを代表するひとりである、チェット・ベイカーのこのアルバムは、いわゆる超絶技巧や作曲の斬新さを見せつける作品ではない。むしろ純粋にスイングに身をゆだねられる心地よさをもっており、晩春や初夏のような季節には何度でも聴きたくなる。
 チェット・ベイカー村上春樹氏のジャズ・エッセイ『ポートレイト・イン・ジャズ』で最初に紹介されるミュージシャンであり、読者にとってはそれが村上氏らしさ、ということだそうだ。エッセイの中で、氏はベイカーの演奏に対し「紛れもない青春の匂い」という表現を与えている。
 私はこの演奏からは、青春の甘さよりは、どこか大人びたリゾートの気配を感じる。音楽の向こうに、行ったことのない南国のけだるい太陽や、なまあたたかい夜のにぎわいを見いせるのだ。
 あるいは、その薄っぺらな憧れこそが、青春の残り香といえるのかもしれないが。
 最終トラックをおしゃれなクリスマスソングで締める、少しかわいらしい構成も好きです。

Chet Baker Quartet Featuring Russ Freeman

Chet Baker Quartet Featuring Russ Freeman