ホロヴィッツのシューマン

3月あたりから、クラシックはシューマンばかりを聴いています。
この数日聴いていたのは、ホロヴィッツの60年代の録音を集めたCD。『子供の情景』『クライスレリアーナ』『アラベスク』『花の曲』などが入っています。

シューマン:子供の情景/クライスレリアーナ 他

シューマン:子供の情景/クライスレリアーナ 他

子供の情景』は、曲の難易度がそれほど高くないからこそ、ホロヴィッツの正確無比な技巧が感じられます。スキのない完璧な演奏のなかで、ときおりはっとさせられる音もあり。トロイメライの高音への跳躍など。
クライスレリアーナ』はこのCDの一番の聴きどころ。吉田秀和氏は、ホロヴィッツは二十世紀の他のどんな名人ともちがう≪憂鬱≫があるといい、彼の演奏するシューマンについて、次のように語っています。

それは、もっと和声的に無器用といってもよいくらいごたごたと錯綜しているうえに、歯切れが悪い。にもかかわらず、ホロヴィッツの手にかかると、そこから、まったくほかとちがう色艶をおびた、しかも、ずっしりと重い手ごたえのある音の織地がくりひろげられてくる。その重さは、シューマンが自分の作品を「わが憧れと悩み」と呼んだ時、感じていたのと同じものだろう。(『世界のピアニスト』より)

この曲集では、2番が吉田氏の評がそのままあてはまるような、神経症的な、凄みのある演奏となっています。また、私が一番好きな曲は6番。右手と左手が対話しているような演奏。シューマン作品の特徴である、ポリフォニックな性格がよく聴きとれます。
『花の曲』は、上記の曲よりももう少し軽め。アンコールの録音か、ホロヴィッツはさらっと楽しんで弾いているようですが、実は四声もあるなかなかの難曲。五部形式のそれぞれに明確な性格をもたせてあります。この演奏を聴いて、私も『花の曲』を練習してみましたが、なかなかこのようには表現できません。