夜の雨、春のぬくもり

ベランダに出て煙草を吸う。
雨の中、春のぬくもりに包み込まれる。
もう冬の終わりではない。春の始まりの、空気のあたたかさ。
長いあいだ、春は好きになれなかった。分かりやすい性格の冬にくらべ、春のあいまいさは私を不安にさせた。
そのためか、春の始まりには、常に旅に出ていた。春の憂鬱から逃れるための旅へ。
少しずつ、春の空気を受け入れられるようになっている。あいまいな空気に満たされたくなったのか。あるいは、自分自身があいまいな性格になったのか。
冬の清澄な輝きは、私を高揚させてくれるものだった。しかし今は、春のやわらかさの中で、その優しさに包まれていたい。