世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド/村上春樹

2007/3/17読了
「君は俺にこの街には戦いも憎しみも欲望もないと言った。それはそれで立派だ。俺だって元気があれば拍手したいくらいのもんさ。しかし戦いや憎しみや欲望がないということはつまりその逆のものがないということでもある。それは喜びであり、至福であり、愛情だ。絶望があり幻滅があり哀しみがあればこそ、そこに喜びが生まれるんだ。絶望のない至福なんてものはどこにもない。それが俺の言う自然ということさ。それからもちろん愛情のことがある。
君のいうその図書館の女の子のことにしてもそうだ。君はたしかに彼女を愛しているかもしれない。しかしその気持はどこにも辿りつかない。何故ならそれは彼女に心というものがないからだ。心のない人間はただの歩く幻にすぎない。そんなものを手に入れることにいったいどんな意味があるっていうんだ?そんな永遠の生を君は求めているのかい?君自身もそんな幻になりたいのか?」(下219)