『ひこうき雲』 松任谷由実

 震災の後何度も、ラジオからこの曲が流れていた。その当時の空気、気分と一致するところがあり、2011年の春に初めて、松任谷由実の作品を購入することとなった。
 作品全体は、都会的で内省的な印象がある。アレンジはやや時代がかったものがあるが、それでも当時の他の楽曲と比べ、時代性は少ない。それと同時に、無国籍な様相も感じられる。その意味で、同時代の村上春樹との類似性も見いだせるかもしれない。
 松任谷由実は、1990年代前半に売上のピークを迎えていたが、当時すでに古さを感じさせる存在だったと思う。その後売り上げが落ちてからは、リバイバル作品や荒井由実時代のベストアルバムを出していたが、あまり好きになれなかった。個々の作品は魅力的でも、どこか時代とシンクロしていない印象があったのだ。
 そのような時代が終わった後で『ひこうき雲』を聴くことで、時代性の薄いこの作品の本来の魅力が感じられる。曲にある叙情は東洋的なものとは違う。唄われているものは喪失だけではない、その先にある何かでもあるだろう。

ひこうき雲

ひこうき雲