私のプリニウス/澁澤龍彦

2007/2/6読了
「なんといってもアネモネの魅力の第一は、私の思うのに、風を意味するギリシア語アネモスから由来している、その言葉のひびきの美しさであろう。(中略)なぜアネモネがとくに風と関係づけられるようになったのか、神話の説明を読んでもよく分からないが、古代人がこれをいみじくも風の花と呼んだことに、私は詩的な味わいを感じないではいられない。」(127)
「もっとも不思議でもっともよく起る現象は、突然の死である。これこそ人生において起りうる、もっとも大きな幸福だ。(死者の紹介が続く)よくもまあ、ずらずらと書きならべたものである。こういうところにこそ、プリニウスの本領が遺憾なく発揮されていると考えるべきだろう。もはやここにはペシミズムの基調は消えてしまっている。すでに作者は死の蒐集家になってしまっているからだ。聞き慣れないローマ人の名前がたくさん出てくるが、そんなものにはいちいち拘泥せずに読みすすんでいただきたい。足の親指を敷居にぶつけて死んだ人物からはじまって、男や女を相手に情事にふけりながら死んだ人物にいたるまで、ほとんどナンセンスすれすれな理由づけとともに展開される、この死のリストは私にはじつにおもしろい。」(165〜167)