新文学入門/大橋洋一

2007/1/26読了
(近代的作者の誕生について)「それまでの中世の作者というのは、自らの外に現前する権威を拠り所とし、過去の、既存の権威というものと密接な関係にあったのですが、近代的作者は、自らの内に蓄積された経験を権威として、未来の可能性あるいは未知の空間と密接なつながりを持つようになったのです。これは過去の反復から、オリジナリティを起点とする未来への運動ともいえます。以後、近代的作者というのは、象徴的な意味で、未知の国への旅行者、未来へのタイムトラヴェラーになったといえるかもしれません。」(63)
受容理論について)「作品を読むとは、実際には自分自身を読むことである以上、読者は自己とは出会えても他者と出会うことはありません。作品を読めば読むほど、読者は自己確認の迷路にとりこまれて脱出できなくなります。受容理論はどうやら読者が作品から現実の作者―つまりは作品を囲繞する現実のコンテクスト―へと向かう回路を遮断し、読者が読者自身としか出会わない閉鎖回路をつくりあげるのに貢献したといえそうです。(中略)しかも、この自己と出会うだけの読者は、最後には、強烈なイデオロギーもなく、ただひたすら内省するだけの、文学作品をひたすら崇拝する、とはつまり文学作品によって形成された文学文化や伝統を崇拝するだけのアンドロイド的存在へと閉じ込められるのです。」(101)
精神分析的批評について)「わたしたちにとって不愉快な忌まわしい話題こそ、わたしたちが真の他者に触れている証拠なのです。文学研究において、不愉快な話題とは何か。それを考えることで、文学研究の望ましい未来がみえてきます。」(220)