『悪霊』神になりたかった男/亀山郁夫

2006/1/14読了
9・11同時多発テロを「芸術的」と評した音楽家に対して)「では、音楽家は、みずからの内面にきざしている「狂気」に、あえて言いましょう、スタヴローキン的な狂気、スタヴローキン的なニヒリズムの存在に気づいてはいなかったのでしょうか。世界をたんに見る対象として突き放す神のまなざし、そしてその傲慢さこそ、被造物たる私たち人間がもっとも恐れるべきものと私は信じています。
あるいは人類は、科学技術の凄まじい進歩を経るなかで、そのように嘯くことができるほどに堕落しきってしまったのでしょうか。もしも、この世に神が存在するなら、神はきっと、テレビの前の私と同じような目で、この悲劇を見ていたにちがいないのです。テロリズムの罪深さはじつはテロリストではなく、むしろテロルの現実をガラス越しないしはテレビの画面越しに見ている私たちにあるのではないか、と私は感じるのです。」(158)