『家族』 山田洋次

2012/4/7鑑賞
BSプレミアムの特集で3月に放送された作品。タイトルがあまりに直接的であるため、鑑賞を躊躇していたのだが、それを後悔させられるようなすばらしい作品だった。
名作であるため、多様な見方ができる作品だが、同じくロードムービーの傑作である「憎いあンちくしょう」への監督なりの回答として、この作品を捉えることもできるだろう。
1962年公開の「憎いあンちくしょう」は、当時のセレブリティであった石原裕次郎と浅岡ルリ子を主役とし、ジープとジャガーを駆って東京から西へと駆け巡る。撮影される土地の多くは大都市や観光地であり、出会う人々は、主人公をとりまく業界人やマスコミ関係者が多い。そこから昭和37年の日本を観ることは不可能ではないが、市井の人々や、彼らの暮らしを垣間見ることは難しい。
それに対して、1970年公開の本作品は、庶民派女優の倍賞千恵子を主役に沿え、五島列島から電車に乗って、北海道の開拓地まで駆け上がる。描かれる土地は、工業都市としての福山、大阪万博、冷たい都市としての東京、ゆったりとした方言の会話が聞こえる東北本線、馬車が走る北海道の大地。
そしてそこで描かれる庶民の生活は、豊かなものではないが、彼らなりの流儀で小さな幸福を積み重ねているようにも見える。
ラストシーンは、緑が萌える六月の北海道。主人公の夫は、開拓者になる夢を実現し、幸せに満ちた描写で物語が終わる。福山の家族が言っていたように、当時開拓農業はすでに斜陽産業であり、主人公たちにはこれから苦しい生活が待ち受けていることが想像される。しかし、あえてそれを示唆せず、彼らの生き生きとした姿で物語を終えたことに、監督が表現したかった「民衆の勝利」の姿が見てとれる。

家族 [DVD]

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