『吉原炎上』 五社英雄

2011/10/23鑑賞
既に何度も再放送されているこの作品。全編通して見たのは、今回が初めてである。
舞台は明治末期であるが、1987年の映画ということで、当時の風潮を色濃く受けている。例えば「金がすべて」「世の中は嘘のかたまり」といったたぐいの台詞は、バブル経済の戯画であろう。
その一方で、どこか懐古的というか、昭和の名作映画を思い起こさせる演出もある。例えばオープニングの映像や、廓で流れる音楽などがそれだが、1950年代の映画のようにぴたりとはまりこんでいるわけではなく、どこかちぐはぐな感じがする。そのことが、作品にいい意味での「作りもの感」をあたえている。
登場人物たちは、そのすべてが現状に対する消極的肯定の態度をとるか、そうでなければ過去の記憶にすがりつつ生きている。未来を見ている人物は一人もいない。唯一生きる希望を持っている名取裕子演じる紫も、ラストで炎上する吉原に舞いもどる。
この時代が公開された当時は、社会的には「新たな時代のはじまり」を予感させる、希望のある時期であったらしい(もちろん暗い部分もあるだろうが)。しかし、作品はその時代風潮に真っ向から対立するような、旧時代的なものなのだ。鑑賞後に希望がもたらされることはなく、むしろかなしみが深まるような思いがする。
しかし、公開時に内容的な評価よりは「話題作」という扱いであっただろうこの作品は、その後幾度もの再放送に耐えうる強さを持っている。当時公開された実写映画の中で、その回数は群を抜いているのではないだろうか。
そこに、昭和末期のあだ花のような、この映画の凄みが感じられるのだ。

吉原炎上 [DVD]

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