『時代屋の女房』

1月26日に鑑賞。
映画本編が始まる前の解説では、山本晋也監督が「映画が公開された当時(1983年)の時代を意識して鑑賞してほしい」と言われていましたが、なるほど、当時の空気感を切り取ったような「当世風」な作品であると思いました。
舞台は東京の下町でしょうか。60年〜70年代に建築された、木造やモルタルのくすんだ建物が広がります。まず、この暗く沈んだような風景が、80年代前半を特徴づけるものと言えるでしょう。
そして、登場人物。現在から比べると、脂っぽかったり、煙草のにおいがしたり、脂粉が漂っていたり。どこか陰を抱えた投げやりな感じも、当時の人物造型のひとつの典型といえそうです。
面白いのは、そのような風景の中に突如現れる、レンタカーショップの鮮やかな看板や、夜の団地の明かり。これらが、くすんだ街並みの中に、ときおりアクセントとして出現します。この90年代的な建物には、80年代前半の空気に対する「裂け目」のような印象を受けます。
作品で「もう少し見てみたかったな」と言える部分があるとすれば、そのような「裂け目」が登場人物では見られなかったこと。当時の人々からは理解できないような、90年代的な登場人物が一人でもいれば、映画からまた違った重層性が生まれたのではないかと思います。

時代屋の女房 [DVD]

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