『近代世界システム論講義』 川北稔 1/2

 ずっと興味があった「近代世界システム」という概念。時間的にウォーラーステインの著作を読むことは難しいが、川北氏によるこの解説本だけでも、ある程度の考え方は理解できる。
 たとえば、米国のトランプ大統領の政策は、世界システム論的に言えば、分業体制を自国に有利なかたちに組み換えるものと考えることができる。「アメリカを再び偉大にする」という発言は、その組み換えの成果によるヘゲモニーの再確立と言いかえることもできるだろう。しかし、生産力や情報技術力で圧倒的な力を持っているわけではない現在のアメリカが、少なくともトランプ氏の任期間にそれを達成するのは、ほぼ不可能であると考える。
 中国の習近平氏による「一帯一路」は、そのシステムに組みこまれた国家間の中での、中国によるヘゲモニーの確立と言える。これが「帝国」として成立する可能性は、少ないながらも存在するかもしれないが、下記に引用するように、「帝国」と「複数の国家の集まり」では、長期的には後者の国力が前者を圧倒するものになる。そのため、一帯一路が仮に成功したとしても、中国のヘゲモニーは地域限定的かつ短期的なものとならざるを得ない。
 また、GAFAは、「現代の巨大な都市雑業業者」と見なすことができる。それらを新しいかたちの国家として捉えようとする向きある。ただし、これらの企業は、軍隊や農地を所有しているわけでは無く、雑多な人間の寄せ集めである国家に比べれば、その構成員はかなり均質的なものであり、そもそも国家とは異なるものである。明確な根拠があるわけではないが、これらの企業がサービス業者であることを超え、世界征服を目論もうとした場合には、世界システムという「神の見えざる手」によるしっぺ返しが待っていることだろう。

 以下、特に参考となった個所を引用する。
・「先進国」「後進国」という考え方は、「国」を単位として歴史を考えていること、それらが同じ一つの発展コースをたどることを前提としてることに問題がある。(22)
・西ヨーロッパの文化を取り入れたピョートル大帝時代のロシアや、開国・維新の日本の状況は、世界システム論からいえば、ロシアや日本がこのシステムに組み込まれたことを意味するにすぎない。(28)
・近代世界システムが成立した背景には、十四・十五世紀のヨーロッパの「危機の時代」にある。人口が減少し、生産が停滞するなかで、領主と農民の取り分をめぐる闘争が強まり、分け合うもとのパイを大きくする必要が生じた。(36)
・近代世界システムの成立過程は、「中核」である西ヨーロッパでは国家権力の強化に作用したが、「周辺」では、国家的な機構は弱められ、アステカやインカ、ポーランドは消滅してしまう。(40)
・中国などの帝国はその内部での武力を独占し、武器の浸透や発展を阻止する傾向が強い。しかし、国民国家に寄せ集めであるヨーロッパでは、各国が競って武器や経済の開発を進めた。このことが、十六世紀には東西の武力の圧倒的な差となった。(42)